季節のお手入れ

ラン栽培と有用菌のこと

土には非常に多くの微生物が生息しています。その量をあわせると10アール当たり、大人5人分の体重にも達すると言われています。
この微生物がしっかり働いてくれれば土の性質は良い方に向かいます。微生物は有機物を分解して窒素やリンを作っていきます。そしてアンモニアを吸収し易い硝酸に変えます。
土を良くする基本として、有機物の施用が強調されますが、有機物は微生物のエサとして働き、微生物の活性化によって土が改善される側面が大きいのです。当然、微生物も呼吸をしなければならないので、土の排水性を高めて酸素の取り込むことも微生物の活性化にとって重要です。

このような条件を整えれば、土の微生物は活性化されていきます。有機物が畑を良くするのではなく、有機物をエサとして微生物の働きが活性化することによって土壌は良くなっていくのです。そして土壌は、常に善玉菌と悪玉菌の微妙なバランスの中で成り立っているのです。

洋ラン栽培における善玉菌の研究は、スゴイネで有名な最上オーキッドガーデンの宇井清太氏が提唱しておられる材木腐朽菌などがありますが、研究はまだその緒に就いたばかりだといえましょう。しかし、農業においては既にEM菌や光栄養細菌、さらには納豆菌・乳酸菌・酵母菌などが実績をあげており、実用化が進んでいます。

(A)EM菌とは
有用微生物群ゆうようびせいぶつぐん、通称EM菌   Effective Microorganisms)とは、琉球大学農学部教授の比嘉照夫氏が1982年に、農業分野での土壌改良用として開発した微生物資材の名称をいいます。具体的な内容は、乳酸菌、酵母菌、光合成細菌(光栄養細菌ともいう)を主体とする有用な微生物の共生体で、農業をはじめ、畜産や環境浄化など様々な分野で利用されています。Effective Microorganismsとは「共存共栄する有用な微生物の集まり」の意味の造語。通称 EM菌と呼ばれています。

以下、EM菌開発者による説明です。
自然界にある5群(乳酸菌群、酵母群、光合成細菌群、発酵系の糸状菌群、グラム陽性の放線菌群)から嫌気、微好気の複数の有用な微生物を集め培養し、液中に複合共生させた資材。また、悪玉菌や遺伝子組替技術によって作出された微生物は使用していない。
微生物環境(微生物相)では、酸素の多い現在の大気中において、酸素を使って有機物を分解する(酸化)微生物の勢力の方が強い。この酸化分解は、ほとんどの場合、腐敗、腐蝕という環境悪化を招いている。そこへ抗酸化力の強い有用な微生物群(EM)を投入することで、発酵、蘇生など生分解型の善循環へ変化させることができるとされる。

EM技術
「EM技術」とは、有用微生物群(EM)を活用した技術。 その有用性から開発当初の土壌改良材という分野を超え、現在では農業、畜産、水産、水処理、リサイクル、土木建築、医療、等々様々な分野で活用が進んでいる。
植物に病害が発生するから農薬を撒き、動物が病気になるから抗生物質を与え、養殖池でヘドロが発生すると浚渫や池の破棄を行うなどの、従来の対処療 法的な問題解決の手法では、多くの地域で環境が破壊されてきた。 大半の場合、上記の問題の原因には微生物が関与しており、悪玉菌と呼ばれる微生物の多くがエサ(有機物)を腐敗(酸化)させ、環境を悪化させている。
しかし、そこにEMを投入すると、有機物が腐敗しないばかりか、発酵によって様々な抗酸化物質や養分が作られ、健全な環境を生み出し、植物や動物などに利用されやすい形になる。これは、EMが有機物を有用発酵させることができる善玉菌の微生物によって構成されているためである。
この技術を用いた結果、農業では植物自体が健康に育つことで病害を克服する方向へ向かう、畜産では動物の健康状態が改善される・糞尿の悪臭除去、水産ではヘドロや病害が発生しないといった現象が起こるとされる。

EM菌(=善玉菌)の働き
もう少し分かり易く説明しますと、EM菌は上で紹介したとおり、80種以上の微生物が混合された有用な微生物の集まりです。一般的によく使われる”善玉菌”の方がわかりやすいかも知れません。ご承知のように”善玉菌”とは”悪玉菌”の活動を押さえ込み、その場を健全な状態に整える働きを持っています。

 微生物による有機物の分解は、作用が人に有用か否かで”発酵”、”腐敗”と呼び名が変わります。EM菌は有機物(有害物質も含む)を発酵させ、役に立つ物質を生成し、またその環境を浄化する力を持っています。EMは悪玉菌をやっつけますが殺菌剤ではありません。場の微生物の勢力を”悪玉菌優勢”から”善玉菌優勢”に変化させるものです。さらに付け加えますと、EM菌に含まれる成分は、もし口に入っても全くの無害です。その様々な個性を持った微生物たちがそれぞれの得意分野を活かし協力しながら、パワフルな抗酸化作用を発揮しているのです。

EM菌使用時の3つのポイント

1.EMは生き物です

EMは微生物です。殺菌剤・漂白剤・水道水のカルキ・熱湯などはEMの活動を鈍くします。
また、低温でも微生物は活動休止しますので、冷蔵・冷凍も避けてください。

2.EMは酸性です

EM原液はpH3.5程度の酸性です。植物など酸に弱いものには、原液が直接かからないようにしてください。

3.希釈して使う

通常EMは水で希釈して使います。薄くても十分効果がありますので、しっかりと希釈してください。
濃すぎた場合、繊維への色移り・酸性による弊害・雑菌の繁殖等がおこる事があります。
また作った希釈液は2、3日で使い切って下さい。

(B)光栄養細菌とは
(光合成細菌とも言われる)

光合成細菌(Photosysthetic Bacteria)とは:
光エネルギーを用いて炭酸同化を行い増殖する細菌の総称。含まれる同化色素は、バクテリオクロロフィル類とカチノイドで、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌、緑色硫黄細菌に大別されます。電子供与体としては、水の代わりに硫黄化合物、水素、有機化合物などを利用するので、高等植物や藻類のような酸素の放出はありません。正式名称は光栄養細菌(Photorophic Bacteris)となります。
「科学大辞典 丸善」より引用

自然界において海水・河川を問わず、魚介類が正常な生活と生長を行って来た背景には微生物の働きがあります。そこで中心的役割を果たしてきたのが光合成細菌で、魚介類にとって光合成細菌は生長・水質保全・抗病の三種の神器のようなものだといえます。光合成細菌は、嫌気的(空気がない)なら光合成を行い、好気的なら光合成をせず有機物からエネルギーを獲得します。光合成細菌や嫌気性の乳酸菌や抗菌性の微生物は、好気条件となったこの地球では出番の終わった微生物であると思われていました。最早、人間の管理なしには、自然発生的に短期間にこれらの菌を拡大・増殖をしえない状況にあります。しかし、この光合成菌を人為的にコントロールできれば、多大な成果をあげることが可能となるのです。

今、光合成細菌を効率よく培養する技術が産学協同で開発され、実用に供されつつあります。しかも菌液は酸性ではなく「アルカリ性のため中和剤が不要」なものが誕生しています。養豚場をはじめとする各種畜産場での糞尿処理と消臭、糞の固形部分の燃料化プラントが実際に稼動しています。さらに、これら畜産場で使用した廃液に含まれる光合成細菌は、土壌蘇生材として各種農業に供されています。トマト・イチゴ・ドラセナ・サトイモ栽培などで実績を上げています。また野菜類の連作障害対策と除菌に効果があることが証明されています。さらに、産業廃棄物処理としては、焼酎粕を処理して養豚用飼料にするプラントが稼動しており、コーヒーや紅茶の出し殻を処理してペレット状の燃料にするプラントも稼動しつつあります。

土壌の窒素固定、脱窒素という窒素のリサイクルと、硫酸菌・硫酸還元菌と連携しての硫黄のリサイクルと、さらに土壌中の放線菌・糸状菌との共生・拮抗により、健全な微生物圏の保持ができるようになりました。植物病原菌の殆どは糸状菌類で、これが大暴れしないよう土壌中の放線菌と光合成細菌量が糸状菌の10倍もあれば、常時健全な生物生産が可能となるのです。光合成細菌と放線菌は共生微生物で、光合成細菌の制菌作用と放線菌の殺菌又は抗菌作用により、我々人間が汚してきた地球を浄化できるのです。

光合成細菌は,自然界における炭素,窒素,硫黄,水素の循環に大きな役割を果たします。役割とは以下の通りです。
1、土壌の酸性化を防ぎます。2、亜硝酸態窒素,硝酸態窒素を除去して電気伝導度を低下させ,特にハウス栽培において塩類の濃度障害を防ぎます。3、窒素の過剰障害を防ぎます。4、生殖生成(花芽形成)を促進します。5、多量のカロチノイド,ビタミン,核酸類を含み,果実,粗菜の糖度,鮮度の保持に効果を発揮します。6、冷害による不稔を防止します。7、日照不足による成育不良の排除。8、フェロモン効果で受粉の促進。9、放線菌と共生して,土壌中の糸状菌を抑圧し良好な根圏微生物群を作りだします。

(C)材木腐朽菌 による「炭素循環」
善玉菌を使った蘭栽培の資料としては、SUGOI-ne(スゴイネ)で有名な最上オーキッドガーデンの宇井清太氏が提唱しておられる材木腐朽菌があります。詳しくはhttp://www.cymbi-mogami.co.jp/ に掲載されていますので、ご参照ください。

宇井氏が主張しておられる下記3ポイントについては、大変興味深いものがあります。
1.自生地におけるこの炭素循環による「糖」の問題が・・・ラン栽培のほとんどの問題である。
2.ランは完全な100%光合成によるエネルギーのみでは生存できない植物である。
3.現在のラン栽培は・・・ランが菌根菌植物であることを忘れている!!

(D)納豆菌・乳酸菌・酵母菌によるコラボレーション
このジャンルで有名なパワー菌液である「えひめAI(アイ)」とは、愛媛県産業技術研究所(旧愛媛県工業技術センター)で開発された【環境浄化微生物】のことです。

納豆菌は、糖やヨグルトの牛乳タンパクをエサに爆発的に殖えた後、酸素が好きなので液体表面に浮いて胞子の状態でコロニー(塊)をつくって休眠しており、散布されると発芽して殖えると言われています。糖をエサに納豆菌や乳酸菌、酵母菌が1ml当たり1~10億個くらいに殖えますと、これらが出す有機酸やアミノ酸のために、液体のpHは3~4に落ち着きます。これら納豆菌と乳酸菌に酵母菌を加えたパワー菌液には、これらの3つの菌がスクラムを組んで作り出した酵素(デンプン分解酵素、タンパク分解酵素、脂肪分解酵素など)が含まれているんです。

このえひめAIが農業で使われ始めており、特に堆肥が従来の3分の1の時間で出来上がることが話題を呼んでいます。山梨県小菅村で製造されている「源流きらり」(えひめAI-2)を使ったホウレンソウの発芽実験と生育実験では、実際に効果が見られたと言います。

詳細は愛媛県産業技術研究所http://www.iri.pref.ehime.jp/)をご参照ください。

今回は、こうした各種有用菌の最新情報をご紹介し、皆様の研究の一助となればとの思いで纏めてみました。有用菌の効果についての実証実験は、当蘭友会の仲間が積極的に行っており、結果が出次第逐次発表を行っていく予定です。

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